
「ナイス!」「マジ天才!」
教室に響く、少し興奮気味の声。
視線の先にあるのは、グラウンドでも体育館でもなく、パソコンのモニターです。
ここは、滋賀県内で初めてeスポーツを部活動に取り入れた、八幡工業高校のeスポーツ部。
部室には、約30台ものパソコンとゲーミングチェアが並び、ヘッドホンとマイクで互いに指示を出し合いながら、画面のなかの世界で仲間と共に戦っています。
勝てば喜びを爆発させて、うまくいかないときは頭を突き合わせて戦略を練る。
そこにあるのは、どこにでもある部活に熱中する高校生たちの姿でした。
滋賀県初のeスポーツ部、誕生から5年
八幡工業高校にeスポーツ部が誕生したのは、今から5年前。それまで同好会などはあったものの、正式な部活動として設立されたのは、滋賀県内で初めてのことでした。
工業高校という特性上、男子生徒が多く、もともとゲーム好きな 子が多い。そんな土壌もあって、eスポーツ部はあっという間に人気の部活に。

現在は1・2年生だけで約40名。
最盛期にはなんと100名を超え、部室に入りきらず時間帯を分けて活動したこともあったそうです。
活動は、月曜から金曜までは毎日放課後。土日には、練習試合なども行います。

目標にしているのは、「ステージゼロ」と「全日本高校eスポーツ選手権」という2つの全国大会。運動部でいうインターハイに相当する、高校生eスポーツの頂点を争う舞台です。
昨年は、Fortnite部門でこの全国大会への出場も果たしました。
オンラインでできるのに、なぜ部活?
ここで一つ、ふと浮かんだ疑問。
「eスポーツってオンラインで対戦できるんだから、わざわざ集まらなくてもよいのでは?」。
その問いに、顧問の三浦先生が答えてくれました。

「ぶつかり稽古じゃないですけど、リアルな場で顔をつきあわせることでしか感じられない熱ってあると思うんです。運動部の子たちってそういう体験してるじゃないですか。練習試合で会った相手校の選手と仲良くなったり、他府県のチームとも交流したり。eスポーツはオンラインで距離や時間、年齢の壁を簡単に超えられますが、部活ではリアルで対戦し、相手の顔をみて感じることを大切にしたいんです」。

そんな考えから年に一度、八幡工業高校を会場に、全国合宿を開催しているそう。
今年は3月27日~29日の3日間、北は北海道から南は岡山まで、全国から7校、最大45名の生徒が滋賀に集まります。
そのスケジュールも本格的。
朝6時半に起床し、学校を超えた混合チームを組んで、3日間かけて技術やチームワークを磨いていきます。
実際に合宿をきっかけに仲良くなり、その後も一緒に練習を続けているという生徒も出てきています。
使うツールが違うだけ
「最初は僕自身も、eスポーツが部活として成り立つのか半信半疑でした」と三浦先生。
ですが、大会前には必死で練習し、いざ本番となると緊張で手が震える。勝負に涙する。
そんな生徒たちの様子を見ているうちに、確信に変わっていったといいます。

「ボールを使ってやる競技なのか、キーボードを使うのか。そのツールが違うだけで、部活として熱心に打ち込む姿は同じだと感じます」。
また、部活を通して「コミュニケーション能力が上がった」という声も、生徒や保護者から届いているといいます。

「部で取り組むゲームの多くは2人以上でのチームプレーが必要で、自然と声を掛け合うようになる。部活に来たくて、不登校気味だった生徒が学校に来るようになったケースもあるんですよ」と三浦先生。
部員らには、外の世界と繋がる機会ももってほしいと、地域の子どもたちにeスポーツを教えにいくボランティア活動をしたり、「東京ゲームショウ」に課外活動に出かけたりもしています。
「逃げた感じで入ったけど、期待以上の”部活”があった」
部長の坂上智哉くんにも話を聞いてみました。

坂上くんは、昨年の「全日本高校eスポーツ選手権」に出場した実力者。
ですが、中学ではバスケ部に所属していて、高校でもバスケを続けるか、eスポーツ部に入るか、ぎりぎりまで迷っていたそうです。
「バスケの顧問の先生が厳しいって聞いて、ちょっと逃げた感じでeスポーツ部に入ったんですけど」と笑いながら話してくれましたが、入ってみると思った以上に真剣で、楽しかったといいます。

「eスポーツもチーム連携や情報共有が必要だし、ひとつのことに一緒に熱中するのは同じ。友情も深まるし、バスケで感じてた楽しさと同じものがありました」。
全国大会に出場したときには、普段あまり関わりのない部員からも「おめでとう」と声をかけてもらったのが印象に残っているとのこと。
「全国大会にはアジアチャンピオンクラスの選手も出場するので、簡単には勝ち進めないですけど、そういう舞台に立てたことは自信になりました。中学のころはゲームしてると親に『勉強しなさい』って言われてたんですけど、真剣に取り組んでる姿を見て、全国大会のときは『頑張ってこい』って背中を押してくれて。親にそう言ってもらえたのは、素直に嬉しかったです」。
ゲームでも部活はできる
最後に、「eスポーツは部活として成立するか」という、少しストレートな質問を投げてみました。

「全身を動かさないから運動部と運動量は全然違うと思うけど、チームワークとか切磋琢磨とか、一緒に戦う仲間との関係性は、他の部活と変わらないと思います。バスケと同じ感覚で部活できてます」と坂上くん。

三浦先生は、
「部活動は、学校生活を豊かにするためのもの。大会に向けて切磋琢磨したり、学校帰りに部活仲間と寄り道したり。いくつになっても学生時代の部活の思い出って残ってたりするじゃないですか。運動が苦手で運動部に入れない子にも、そんな経験をしてほしいと思ってます」と話してくれました。
ゲーム=遊び。正直、そんな先入観を持って始まった取材でしたが、ここには確かに部活動の風景がありました。画面の中だけにとどまらない彼らの戦いは、これからも続いていきます。
(文・福本明子/写真・辻村耕司)
(公開日・2026年3月30日)






