
オリンピック、パラリンピックに並ぶ世界的なスポーツ大会が、この秋ついに日本初開催。
その名も「デフリンピック」。
聴覚障害のあるアスリートが世界一を競い、スタート合図は音ではなく光――独特の緊張感に包まれます。
滋賀県からも複数の選手が出場予定。その一人、ハンマー投げ世界記録保持者の森本真敏選手にお話を聞いてきました!
パラリンピックとはここが違う!実は「競技ガチ勢」の大会

デフリンピックは、聴覚に障害のあるアスリートのための国際スポーツ大会です。1924年にフランス・パリで第1回大会が開かれ、パラリンピックよりも古い歴史を持ちます。
出場資格は「55デシベル以下の聴力レベルであること」で、補聴器や人工内耳を外してプレーするのがルールです。
森本さんはこう説明します。

「デフリンピックは“ろう者だけのスポーツの大会”。社会性を重視するパラリンピックと違い、順位や記録といった競技性を強く追求する大会です。世界の仲間と真剣に一番を目指す場なんです」
これは両大会の創設時の理念の違いを表しています。パラリンピックは戦後のリハビリテーション医療から生まれ「社会復帰」を目的に始まったのに対し、デフリンピックは最初から「ろう者同士の記録を競い合う」ことを目的に創設されました。
現在では両大会ともに競技での卓越性を追求していますが、その出発点が異なるのです。
音のない世界で、純粋に競技力だけを競い合うのがデフリンピックです。
デフリンピックならではの観戦体験
初めてデフリンピックに出場したとき、森本さんは衝撃を受けました。
「日本にいるときに手話を使うことは本当に少ない。でもデフリンピックに出場したら、世界中から同じ仲間が集まっている。手話が飛び交っていて、とても心強かったです」。
(提供:一般社団法人日本デフ陸上競技協会)
観客にとっても特別な体験があります。
「スタートの合図は音ではなく、光や旗。会場は不思議な静けさに包まれているんです。熱戦なのに音はない。でも視線や手話で交わされるやり取りで、とても賑やかに感じる。聞こえる人が観戦すると、言語や文化の違う国にきたみたいな感じ?異国に迷い込んだような気分が味わえます」。
普段のスポーツ観戦とはまったく違う空気感。それがデフリンピックの大きな魅力です。
一度は引退も。東京で挑む集大成
森本さんはもともとハンマー投げ選手ではなく、野球少年でした。
小学生のころは地域の野球少年団に入り、健常者の仲間と一緒にプレーしていました。高校入学後、野球部がなく落ち込んでいたとき、恩師に勧められたのがハンマー投げ。そこから競技人生が始まりました。

やがて日本人初のデフリンピック金メダリストとなり、世界記録を樹立。日本を代表するアスリートへと成長しました。
国体など健常者の大会にも出場し、「聞こえる・聞こえないに関係なく、同じ舞台で戦える」と実感したといいます。
2013年に怪我で一度引退しましたが、現在は東京2025デフリンピックを最後の舞台と位置づけ、再び挑戦中です。
「東京でデフリンピックが開催されるなら、そこで有終の美を飾りたいと現役復帰を決めたんです。気持ちも体も高めて、最後までやりきる。先を見据えた上での戦い。もちろん金メダルを目指します!」
26年間の競技人生、その集大成が母国開催の東京大会となります。
滋賀県ゆかりの選手も6人出場!

今回の東京デフリンピックに滋賀県ゆかりの選手が6人出場しますが、そのうち森本さんと円盤投げの湯上剛輝(ゆがみまさてる)さんはデフの世界記録保持者。メダル獲得が期待できます!
しかも、湯上さんは、今年の世界陸上にも出場。世界のトップ選手に挑む、日本を代表するデフアスリートです。
他にも、テニス・今井悠翔(いまいはると)さん、サッカー女子・髙橋遥佳(たかはしはるか)さん、陸上400m他・山本剛士(やまもとつよし)さん、陸上走り高跳び・髙居千紘(たかいかずひろ)さんら、若手の選手の活躍にも期待が高まります。
デフリンピックが切り開く、新しい社会
日本初開催、100周年という記念すべき東京2025デフリンピック。
森本さんの見据える未来は、金メダルだけではありません。

「デフリンピックを知ってる人はまだまだ少ない。日本で開催され、ニュースや報道が増えれば、存在を知ってもらえるいい機会。ろうの子どもたちが夢をもつことができるかもしれない。東京大会をきっかけに、社会が変われば」と語ります。
森本さんの試合は11月20日、大井ふ頭中央海浜公園陸上競技場で行われます。
観戦は事前申し込み不要・無料。
※他の陸上競技の会場は駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場です。詳細は公式サイトをご確認ください。
現地へ足を運ぶのは難しくても、まずは「デフリンピック」という大会があることを知り、周りの人にも伝えることから始めませんか。それが森本さんをはじめとする選手たちへの一番の応援になるはずです。
滋賀から世界に挑む選手たちの活躍を、地元からしっかりと見守りたいですね。

(文・福本明子/写真・辻村耕司)
東京2025デフリンピック概要
開催期間:2025年11月15日〜26日
会場:東京都を中心とした各競技会場
観戦:入場無料、事前申込不要
東京2025デフリンピック公式サイト
https://deaflympics2025-games.jp/







