カヌーやSUP(サップ)から「ビワイチ」まで、今、さまざまなスポーツで注目されている琵琶湖。
そんな琵琶湖の「風」を利用した国際大会が、2024年11月下旬、守山市のヤンマーサンセットマリーナを拠点に開催されました。その名も「BIWAKO DRAGON INVITATION 2024」。なんと、世界中の13の国と地域から約100名のトップセーラーが集まるドラゴンクラスの国際ヨットレースだとか!
オリンピアンやヨット界のレジェンドといわれる選手まで集結した今大会。ここまで大規模な「ドラゴンクラス」の国際レースが日本で開催されるのは珍しいことだそう。
ドラゴンクラスって何?そもそも琵琶湖ってヨットに向いてるの?そんな疑問を解決するとともに、ヨットや琵琶湖の魅力を紹介します!
「いつかはドラゴン!」セーラーたちが憧れる競技
「ドラゴンクラス」は、100年近い歴史のある伝統的な競技クラスのこと。全長8.90メートル、重さ1.8トンのヨットに合計体重285キログラムの乗員たちが乗って順位を競います。
ドラゴンクラスの特徴は、なんといってもセールの面積やマストの長さ、ヨットの重さや形、乗員の最大総重量にいたるまで、厳しく決められていること。このルールは、1929年に設計されてから現在までずっと変わっていないというから驚きです!
船の性能に厳しい規定がある分、純粋にセーラーの力量によって勝敗が決まるのがドラゴンクラスの面白いところ。王室にも愛好家が多く、セーラーの間では「いつかはドラゴンクラスに」と憧れられる競技だそうで、車で例えると、熟練のレーシングドライバーがクラッシックカーに乗ってレースに出ているのをイメージすると分かりやすいかもしれません。
必要なのはセーリング技術と、風を読む力、そして良い風を受けるための戦略です。たとえば風がない場所の水面は鏡のように見えるし、風が吹いていると波立って黒い影ができます。水面の様子や雲の流れから良い風が吹いている場所を見極め、有利なコースを選んで進んでいきます。
“トリッキーな風”が吹く琵琶湖での激戦!
大会には日本、ドイツ、スコットランド、オーストラリア、香港、スイスなどから30チームが参加。ドラゴンクラスのヨットが湖上にずらりと並ぶ姿は壮観です!
青い空と湖にヨットの白い帆が映え、湖面を滑るように進んでいきます。
風の強弱や方向がめまぐるしく変わる、いわゆる“トリッキーな風”が吹くのが琵琶湖の特徴。
コクピットにはたくさんのロープが張り巡らされ、ロープを引いたり緩めたりしながら帆の角度や形を調整します。特にドラゴンクラスのような繊細なヨットでは、ロープを引く力加減や緩めるタイミングが船のバランスやスピードに直結するそう。
大小の帆を風向きに合わせて調整し、効率よく風をとらえて速度を上げていきます。
急に風向きが変わる中、敵チームとの駆け引きやコース争いが繰り広げられ、セーラーの腕が試されます!
4日間で計6レースが行われ、総合優勝はスイスのチームに。そしてなんと世界各国の競合がひしめく中、日本のチーム「YRed」が2位に入賞しました!
厳しい環境がトップセーラーを生む
セーラーから見た琵琶湖の魅力について、ヨットの日本代表選手としてアトランタオリンピックにも出場した兵藤和行さんにお話を聞いてみました。
「ヨット競技をしている人にとって、琵琶湖は風が安定しない、難しいイメージがある場所かもしれません。山から吹き下ろす『比良おろし』が、湖面にあたってバッと広がる。それが湖面に浮いている我々にはすごく読みづらいんです。そしてここ琵琶湖は、国際的に活躍するセーラーや、オリンピック代表に選ばれるセーラーがたくさん生まれている場所でもあるんです」。
「セーリングは、風を敏感に感じ取って繊細に船を操縦することがとても大事なスポーツ。だから困難なフィールドといわれる琵琶湖で培った技術は、世界中どこに行っても通用するものになります。琵琶湖で基礎を習得してから世界のフィールドで戦うという経験は、セーラーにとってとてもプラスに働いているなと思います」。
そして何より、景色が抜群だという兵藤さん。
「僕はずっと琵琶湖でセーリングをしていますが、琵琶湖は本当に良いロケーション。周りの山々がきれいで、虹もたくさん見える。海外の選手も喜んでいると思いますよ。レースに限らず、レジャーでヨットに乗るにも最高の場所です」。
2025年に滋賀県で開催される「わたSHIGA輝く国スポ・障スポ」には、もちろん滋賀県の選手も多く出場します。琵琶湖の厳しい環境で練習を積んできた選手たちの活躍に期待が高まります!
琵琶湖から水辺の文化を広めたい
続いて、「BIWAKO DRAGON INVITATION 2024」の大会運営をリードしたヤンマーホールディングス株式会社の奥峯輝夫さんに、大会開催への思いを聞きました。
「ヨットは“風”という自然エネルギーで動く乗り物で、再生可能エネルギーの推進に取り組んでいるヤンマーの考え方にすごく合っているんです。滋賀県は創業者生誕の地で、県内にヤンマーミュージアムをはじめ、中央研究所、生産拠点も構えており、今も深い関係にあります。そのため、今後も一緒に発展していきたいという気持ちで、滋賀県の魅力発信や地域貢献を続けていきたいと思っています」。
「日本は島国なので、水辺をもっとスポーツやレジャーに活用できたらいいなと思います。その裾野を広げる活動を、琵琶湖からやっていきたい。今回、世界中からたくさんのトップセーラーが参加してくださいました。彼らのレース運びやテクニックを目の当たりにして『コンディションの難しい琵琶湖で安定してスピードに乗るためにこんなロープの使い方があったんだ!』と発見があったりして、日本の選手の皆さんにも刺激になったのではないかと思います」。
ヨットは子どもから年配の方まで誰もが自分に合った楽しみ方ができる生涯スポーツです。日本と同じ島国のニュージーランドでは、3人に1人が何らかの水に浮かぶ乗り物を持っているそう!
「興味を持ったら、まずは乗ってみてほしい」と話す奥峯さん。大会を主催した琵琶湖サンセットヨットクラブでは「ヨット操縦体験会」も開催されており、ヨットに触れるチャンスは案外身近にあります。
ヨットを含む湖上スポーツを通じた交流がさらに広がり、新たなオリンピアンが生まれる―。琵琶湖の可能性を国内外に示した今回の大会は、そんな未来への第一歩かもしれません。
(文・林由佳里/撮影・赤井悠大/写真提供・ヤンマーホールディングス)
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